森の変化とクマの出没 ~紀伊半島の山里の事例~

ツキノワグマ

私が住む、紀伊半島の山里にツキノワグマがあらわれ、柿を食べていきました。昨年、今年と、山で楢枯れが発生し、食料であるドングリが減ったことが影響しているのでしょうか。長年悩まされてきた猿の出没は減少しているのですが、この先どうなることでしょう。

森の変化とクマの出没 ~紀伊半島の山里の事例~

ツキノワグマが柿を食べに来た

柿を食べるツキノワグマ

柿を食べるツキノワグマ

残念ながら、クマの写真が撮れていないので、canvaに描いてもらいました。

柿の木には見えませんが、このように樹に登ってたべていたと思われます。

周囲の様子を見ながら、こっそりと出てきて食べていったようです。

山里と書きましたが、ここは紀伊半島、奈良県内の一集落で、

周囲を山々で囲まれた、標高350~450mの傾斜した土地の集落で、

直径4kmほどのまわりは、標高800~1000mの山の尾根に囲まれています。

盆地というより、すり鉢の底に住んでいるようだと、いわれたりします。

ここでは、クマは、以前から標高の高い場所には住んでおり、

ヤマメの養魚場などに、たびたび出てきていましたが、

民家の柿を食べにきたことはありませんでした。

初めてのことで、皆さん警戒しています。

養魚場では檻を仕掛け、何度か捕まえましたが、

兵庫県から動物愛護関係の方が来られ、

村内の遠方でリリースしてきたようですが、

しばらくすると舞い戻ってくるので、

養魚場の若い主は、なんとかならないかと嘆いていました。

最近、電気柵を設置したそうですが、クマは相変わらず来ているようです。

クマのものと思われる糞

クマのものと思われる糞

柿の木は、種がたくさんの甘柿がなりますが、

周辺に、柿の種が混じった大きな糞が落ちていました。

所有者の話では、外出して帰ってきたときに、

数十個ついていた柿がないことに気がついたそうです。

糞はあっても姿をみたひとはおらず、

恐る恐る出てきて食べていったようです。

養魚場のクマと同じ個体かどうか定かではありませんが、

近所の方々も、散歩は自粛し、外出は控えめにしています。

クマが原因かどうかは確かではありませんが,

いまのところ、いつも作物を食べにくる猿の出没が,

ほとんどみられなくなっています。

サルを追いかけるクマ

サルを追いかけるクマ(想像)

クマが冬眠すると、猿が活躍しだすかもしれず、

なりいきを見守っているところです。

楢枯れによるドングリ不足の影響?

昨年、周囲の山で「楢枯れ」が見られ、ドングリの減少が、

山の動物に影響することが心配だとしましたが、

クマが民家の柿を食べるという、今までなかったことが起こり、

この楢枯れが影響した可能性もなきにしもあらずかと、

思っている次第です。

じつは、ことしの春、近くの林で、スギの皮剥ぎがみられました。

標高の高いところでは、今迄も見られたのですが、

林道ぞいの林で見られたので、驚きました。

クマの皮剥ぎ

クマの皮剥ぎ(2025年5月)

スギやヒノキは、冬には水を吸い上げず、

皮を剥くことは難しのですが、

暖かくなり形成層から水を吸い上げるようになると、

剝きやすくなることとがあり、鋭い爪を使って剥いただ、

つるつるした表面の汁などを、食べるとのことです。

クマの爪痕

クマの爪痕

よほど腹が空いているからなのでしょうか。

たいしてお腹がふくれるとも思わないのですが。

春にこの状況を見たとき、いやな予感がしたのですが、

秋には柿をたべにきてしまいました。

枯れた杉

枯れた杉

ちなみに、樹の周辺を一周にわたって剥かれた樹は、枯れます。

スギ林の中で、茶いろくなっているのは、

このようにして枯れたものであることが多いようです。

楢枯れとドングリの減少

実は、ことしの夏にも楢枯れがおこっていました。

楢枯れ

楢枯れ(2025年8月)

山のあちこちで、このように、楢枯れが起こっており、

今年も、ドングリの減少は続いているようです。

紀伊半島のツキノワグマの食料

ツキノワグマの出没についての報道などでは、

ブナやミズナラのドングリの豊凶が影響しているといわれますが、

紀伊半島のすくなくとも標高が400~500mくらいの比較的低い地域では、

ブナやミズナラは少なく、コナラやカシ類が多くなります。

この点、東北地方の植生とは違っているようです。

カシ類は楢枯れの被害は少ないようですが、

コナラが大量に枯れるとドングリの量も少なくなるはずです。

当地方で、私が楢枯れを見たのは、昨年が初めてで、

その勢いに驚きましたが、今年も続いて起こりました。

樹が枯れてしまうので、その後は継続してドングリの量は実らないということになります。

ドングリの豊凶の場合は、その後も、年による変化あるものの、

着果は継続しますが、楢枯れは、樹が枯れてしまうので、

より深刻になように思います。

新しく苗を植えることも、考えたほうがいいかもしれません。

それでも、実が生り始めるまで、年月がかかることを覚悟しなくてはなりません。

もちろん、代替する食料でみたすことができれば問題ないのでしょうが・・・

当面、様子を見守っていきたいと思います。

ツキノワグマが、柿の木の他に食べていたもの

今回、柿の木以外に、ツキノワグマが着果した実を食べたと思われる樹が何本かありました。

ミズキクヌギカラスザンショウです。

ツキノワグマが実を食べたと思われるミズキ

ツキノワグマが実を食べたと思われるミズキ

 

ミズキ

ミズキ(拡大)

ミズキの実は、クマが食べることは知られています。

いままで見たことがないほど枝が折れていたので、

クマの仕業だろうと思います。

ミズキの実

ミズキの実

小さな黒い実ですが、これを食べるようです。

民家から300mほどの林地に、私が植えたクヌギの樹にドングリがなっていたのですが、

同じように枝が折られており、クマだろうと思われます。

来年に向けて、樹を処分した方がいいか、

そのまま置いておくほうがいいのか、

悩ましいところです。

より山奥に、コナラの苗を植えてやるのがいいかともおもいますが、

個人では、なかなか大変そうです。

森林の管理の必要性について

いま、日本の森林は人が入らず、多くが放置された状態になっているといわれます。

クマが都市部にまで出没するのは、山に十分な食料がないことが、原因の一つかと考えられます。

食料の事情と、クマの増減はよくわかっていないと思いますが、

まず、食料不足が起こっているのなら、

たとえば枯れた樹の後継になる樹を植林するなどの対策が必要ではなでしょうか。

そのうえで、正確な頭数を把握し、頭数管理を行うなどを行えればと思います。

日本の国土の70%を占める森林ですが、人工林、天然林を含め、

有効に活用することをもう少し考えてみてもいいのではないかと思います。

輸入木材に依存し、林業が衰退してしまった現状は、

所有者もわからなくなりつつあり、先々が心配されます。

何らかの方法で、森を管理していくことを考える必要があるのではないか。

たとえば、自治体において少数でも人員を確保し、

必要最低限のことでも行っていくことが必要ではないか、

そんなことを思います。

ツキノワグマに関連する基本情報

ツキノワグマについて 

日本にはヒグマ(北海道)とツキノワグマ(本州・四国)が生息しています。

クマが日本列島に住みだしたのは、ナウマンゾウが生きていた30万年以上前といわれ、

人が住み始めたと考えられる、4万年前ごろに較べると、大先輩といえそうです。

また、ヒグマは、1万年前ぐらいまでは、本州にも住んでいましたが、いまは北海道だけ。

ツキノワグマは、九州では1957年ごろに絶滅、四国では絶滅危惧で、

本州では、千葉県には地理的条件などから生息していないとされます。

本州、四国のツキノワグマは、つぎの図のように、

東日本グループ、西日本グループ、南日本グループの3つの

グループに分かれています。

ツキノワグマの分布

ツキノワグマの分布 ー吉野・大峰フィールドノートよりー

もともとは、日本列島全体に住んでいたようですが、

人間の生活がこのような分断(?)を生んだと考えられます。

戦後の、天然林を伐採して人工林にした拡大造林なども影響しているのかもしれません。

ツキノワグマは胸に三日月形の白斑を持つのが特徴で、

森林性の動物として山岳地帯から里山まで幅広く暮らしています。

嗅覚と聴覚が非常に優れており、主にこれらを頼りに行動していますが、

視覚はあまり良くないと言われています。

食性は雑食性で、ドングリやブナの実などの堅果類、果実、草本植物を主食としつつ、

昆虫や小動物を捕食することもあります。

秋には冬眠に備えて大量の木の実を食べ、脂肪を蓄えます。

時にはカモシカなどの大型動物を襲う例も報告されており、瞬間的に時速50kmで走る俊敏さを持ちます。

行動範囲は広く、季節や食物資源に応じて数十km単位で移動します。

人里近くに出没するのは、餌不足や森林環境の変化が背景にあり、

農作物被害や人身事故が増加しています。

ただし本来は臆病で、人間を避ける傾向が強く、危険は主に母グマが子を守る場合や不意の接近によるものです。

紀伊半島のツキノワグマ

紀伊半島に生息するツキノワグマは、日本でも特に南限に位置する個体群で、

奈良県・和歌山県・三重県の山岳地帯に分布します。

生息数は少なく、孤立的な分布をしているため絶滅が危惧されています。

紀伊半島のクマは、限られた森林資源の中で生活しているため、

行動範囲が狭く、食物不足時には人里近くに出没しやすい傾向があります。

地域の人々にとっては農作物被害や遭遇リスクが課題となる一方、

文化的には「山の神の使い」として畏敬される存在でもあります。

総じてツキノワグマは、森林生態系において種子散布など自然循環に寄与する重要な存在であり、

人との関係は「恐れ」と「共存」の両面を持ちます。

紀伊半島の個体群は特に保護の必要性が高く、地域社会と生態系のバランスを考えた共存策が求められています。

クマの主食、ドングリをつける樹の種類と分布

日本でドングリをつける樹はブナ科に属し、コナラ・クヌギ・カシ類・シイ類・クリなど約22種類が知られています。

地域により、概略以下のように分布。

•北海道:ミズナラ、クリなど冷涼地に適応

•東北~中部山岳ブナ、イヌブナ、ミズナラ

•関東以南コナラ・クヌギ、シラカシ

•西日本(四国・九州・紀伊半島)アラカシ、ウラジロガシ、ウバメガシ、スダジイ、ツブラジイなど常緑樹が多い

<ドングリをつける樹の種類>

コナラ属(落葉樹)  コナラ、ミズナラ、クヌギ、アベマキ、カシワなど。
里山や雑木林の代表的な樹種で、農村文化と深く結びつく。

カシ類(常緑樹) シラカシ、アラカシ、ウラジロガシ、ウバメガシ、アカガシ、イチイガシなど。
西日本の照葉樹林に多く、紀伊半島や四国・九州で特に豊富。

シイ類(常緑樹)マテバシイ、スダジイ、ツブラジイなど
温暖な地域に分布し、「椎の実」として食用にも利用される。

ブナ属 ブナ、イヌブナ                                                                                      東北から中部の山岳地帯に広く分布し、冷涼な気候を好む。

クリ属 クリ(ヤマグリ、シバグリ)                                                               北海道から九州まで広く分布し、縄文時代から食用として利用。

<ドングリをつける樹の分布>

北海道:ミズナラ、クリなど冷涼地に適応した種。

•東北~中部山岳ブナ、イヌブナ、ミズナラが優占

•関東以南コナラ・クヌギ、シラカシなど

•西日本(四国・九州・紀伊半島)アラカシ、ウラジロガシ、ウバメガシ、スダジイ、ツブラジイなど常緑樹が豊富

•沖縄・南西諸島:オキナワウラジロガシなど希少種も分布。

<ドングリの生態的・文化的意義>

ドングリはツキノワグマ、シカ、イノシシ、猿、リス、カケスなど多くの動物の重要な食料源であり、

動物間での競合が見られる。

樹は、でも古くから炭材・建材・食料として利用され、里山文化を支えてきた。

ツキノワグマの四季の食べ物

春(冬眠明け)
•ブナの新芽・花芽(特に蕾を好む)
•タケノコ・山菜類(ウド、アザミなど)
•若葉(ケヤキ、ツガ、モミ、カエデ属、ササ類など)


果実類:サルナシ、ヤマブドウ、エビガライチゴ、アケビ、ズミ、ウワミズザクラなど
柔らかい木の実:ミズキ、ヤマボウシ、ヤマグワなど
草本類:(スゲ属、セリ科など)

秋(冬眠前の重要な時期)

堅果類(どんぐり類):ブナ、コナラ、ミズナラ、クリ、トチノキ、オニグルミなど
果実類:マタタビ、ミヤマザクラ、ミズキ、カラスザンショウ、オオバクロモジなど)
(脂肪を蓄えるために大量に摂食し、冬眠に備える)

ツキノワグマとニホンザルの種間関係

「日本におけるツキノワグマとニホンザルの種間関係」に関する研究では、

両者が同じ森林環境で資源を共有し、食物や行動において競合する可能性があることを分析。

直接的な捕食関係はほとんどなく、主に「資源利用の重なり」による間接的な関係が強調されています。



ブログランキングの応援をお願いします


ブログランキング・にほんブログ村へ/          人気ブログランキング


PVアクセスランキング にほんブログ村

山に出かけてecoライフ - にほんブログ村

~いま見ごろの花や草木~

-動物, 樹木, 生き物
-,