水辺で可憐に咲くノジトラノオ(野路虎の尾)の白い花
ノジトラノオの花

こたらは、大阪公立大学附属植物園で撮影させていただいた、ノジトラノオの花です。
東アジアが原産で、日本、朝鮮半島、中国、ロシアなどに自生する、サクラソウ科 オカトラノオ属の多年草で、日本国内では本州の関東地方以西から九州北部にかけて分布します。
日本では、湖沼が少なくなってきていることなどから数が少なくなっており、環境省の絶滅危惧種Ⅱ類(VU)に指定されています。
日当たりの良い湿地や、河岸などの湿り気のある環境を好む野草で、5~8月ごろ、茎の先に、長さ4~6cmほどの花序が伸び、花が咲き進むと、先端が垂れ下がります。
花序には、直径8~12mm程の小さな花が密に付き、花が一方に偏って咲く性質があり、独特の花の姿になっています。
花びらは5枚で、長楕円状へら形(長さ5~8mm 幅約2mm)で、先端はわずかに凹んでいます。

このように、先が垂れ下がった白い花序をトラの尾のようだとして「トラノオ(虎の尾)」とし、野原(野路)などに自生することから「ノジ(野路)」をつけて、名付けられました。
中国名でも、同じように「虎尾草」と呼ばれています。
ハナトラノオと呼ばれる花がありますが、こちらの花は、まっすぐに伸びた茎に、たくさんの花が連なって咲くことから、命名されたようです。
共通するのは、長く伸びた穂にたくさんの花が咲くことで、この様子から虎の尾を連想したように思われます。
花言葉は、朱に交われば赤くなる
ノジトラノオは、オカトラノオやヌマトラノオなどの近縁種とよく交雑することから付けられた花言葉と言われます。
ノジトラノオの葉、茎

葉には鋸歯がなく、また葉柄もほとんどなく、茎にほぼ直接付きます。
葉の大きさは、長さが約4~10cm 幅が約0.6~2.2cmで、長楕円状披針形から倒披針形、あるいは細長い線形です。
オカトラノオの葉幅が2~5cmと広いのに対し、本種は細長くスマートな形をしています。
また、葉の上面には毛があり、下面には上面よりも多くの微細な毛が密集しています。
茎は、分岐せず単一でまっすぐ直立しますが、上部でわずかに枝分かれすることもあります。
草丈は30~100cmほどで、多くは70cm前後に成長します。
白く小さな花が連なり、可憐に咲くノジトラノオ、生きる場所が狭められていますが、いつまでも咲き続けてもらいたいものです。
ノジトラノオの基本情報・花言葉
☆☆ わかりやすく解説した スライド版 もご一読ください。☆☆
原産地、分類、特徴
ノジトラノオは日本、朝鮮半島、中国、ロシアに自生する東アジアが原産で、サクラソウ科・オカトラノオ属の多年草です。
日本国内では本州の関東地方以西から九州北部にかけて分布します。
日当たりの良い湿地や、河岸、湿地周辺の遷移初期にある原野などの湿り気のある環境を好んで自生します。
地下に匍匐する根茎を持ち、茎頂に白い小花を密生させた長い花序を形成します。
土地造成や道路工事、湿地の乾燥化や開発などによって自生地が激減しており、環境省のレッドリストでは絶滅危惧II類(VU)に指定されています。
自生地の一つである栃木県の渡良瀬遊水地などでは、定期的なヨシ焼き(野焼き)によって草地の遷移や大型木本の侵入が抑えられ、自生環境が辛うじて維持されています。
文化的側面としては、静岡県の掛川周辺などで見られる伝統的な茶草場農法(茶畑の敷き草採取地)に自生が見られ、茶室に飾る茶花として古くから利用されてきた歴史もあります。
なお、野外では同属の植物と交雑しやすく、ヌマトラノオとの交雑種であるノジヌマトラノオや、オカトラノオとの交雑種であるノジオカトラノオ、またオカトラノオとヌマトラノオの交雑種であるイヌヌマトラノオなどが存在し、形態的な誤認や自生集団の置き換わりが指摘されています。
名前について
和名は、ノジトラノオ(野路虎の尾)で、垂れ下がった白い花序の姿をトラの尾に見立てた「トラノオ(虎の尾)」に、山野の道端や野原(野路)に自生することから「ノジ(野路)」を冠して名付けられました。
中国名では「虎尾草」と呼ばれています。
学名は、 Lysimachia barystachys Bunge
命名者はロシアの植物学者アレクサンダー・ゲオルク・フォン・ブンゲ(Alexander Georg von Bunge)です。
学名の属名 Lysimachia(リシマキア)は、古代マケドニアの王リュシマコス(Lysimachus)に因み、狂暴化した牛に襲われたリュシマコス王が、この属の植物を振って牛に見せたところ、牛がたちまち大人しく鎮まったという古代の故事・伝説に由来します。
また、ギリシャ語の「lysis(解ける、解放)」と「mache(争い、戦闘)」が合わさった言葉で、「争いを鎮める」という意味合いも含んでいます。
種小名の barystachys(バリュスタキス)は、ギリシャ語で「重い、重厚な」を意味する「barys」と、「穂」を意味する「stachys」が合成されたもので、「重みのある重厚な花穂を持った」という意味で、ノジトラノオが小花を密につけ、ずっしりと垂れ下がる花穂の特徴を表した命名です。
英名は、Manchurian yellow loosestrife
「loosestrife(ルーズストライフ)」は、英語の「loose(解く・鎮める)」と「strife(争い)」から成る言葉であり、属名の由来である「牛の争いを鎮めた草」という故事をそのまま英語に直訳した呼称です。
また、オカトラノオ属(リシマキア属)の植物には黄色い花を咲かせる種が多いため、属の総称として「yellow loosestrife」が定着しています。
本種の花は白色ですが、満州(中国東北部)をはじめとする東アジアに広く分布することから「Manchurian(満州の)」が冠され、この名で呼ばれています。
花
花期は、5~8月で、地域や自生地(渡良瀬遊水地など)では主に6~7月頃に見頃を迎えます。
茎の頂端に長さ4~6cmほどの総状花序を直立させ、開花が進むにつれて花序の先端が弓なりに垂れ下がります。
この花序は結実期にかけて徐々に伸長し、果期には30cm程になります。
花序には多数の小花が密に付き、しばしば花が一方に偏って咲く(扁側する)性質があります。
花序を構成する苞は線状錐形で長さ4~6mmほどあり、花柄(長さ4~6mm)とほぼ同長かやや長く、
開花前の花穂先端ではこの苞葉が密生して毛のように目立ちます。
小花の直径は、8~12mm程度で、萼片は長楕円形で長さ3~4mm、縁は膜質で先端は丸みを帯びています。 花冠は基部が短い筒状(長さ約2mm)になっており、深く5裂します。
花びら(花冠裂片)の数は5枚で、形は長楕円状へら形(長さ5~8mm、幅約2mm)をしており、先端は鈍形またはわずかに凹んでいます。
花弁の内側には暗紫色の腺の筋(線条)が走ることがあります。 雄しべの数は5本です。花冠裂片と対生し、花冠の外へは突き出ません。
花糸は花冠筒部に付着しており、分離している部分は長さ約3mmで、表面に腺のある微軟毛が生えています。葯は楕円形で背着し、長さは約1mmです。
雌しべの数は1本です。子房は上位で球形をしており、表面は無毛です。
花柱は長さ3~3.5mmほどあり、受粉後も残ります。
その他の特徴として、同属のオカトラノオの花序が先端に向かって滑らかに細く尖るのに対し、ノジトラノオの花序は先端があまり尖らず、やや丸みを帯びた形状を保ちながら垂れ下がる点が挙げられます。
また、ヌマトラノオのように直立したまま垂れない花序とは一目で区別できます。
実
実は蒴果(サクカ)で、球形から類球形をしています。
大きさは直径2.5~4mmほどで、基部には宿存する萼片が残り、先端には枯れた花柱が残ることがあります。
色は未熟な時期は緑色ですが、秋に成熟すると淡褐色から暗褐色へと変化します。
蒴果の内部には、球形の胎座の窪みにはめ込まれるようにして多数のタネ(種子)が形成されます。種子の大きさは長さおよそ1mm前後の微小なもので、形状は多面体や不定形、あるいはやや角張った円錐状をしています。種子の表面は暗褐色から黒褐色を呈します。
果実が完全に熟すと、蒴果の果皮が縦に裂開し、内部の多数の微細な種子が風や雨水によって周囲に散布されます。
葉、茎
茎葉は、茎に互生するか、または向かい合うように近接してつく類対生です。
葉に鋸歯はなく、また葉柄もほとんどなく、ほぼ無柄で茎に直接付着します。
葉の大きさは、長さが約4~10cm、幅が約0.6~2.2cmです。 葉の形は、長楕円状披針形から倒披針形、あるいは細長い線形です。
基部に向かって徐々に幅が狭まり(漸尖)、先端は短く尖るか鈍形から鋭形を呈します。
オカトラノオの葉幅が2~5cmと広いのに対し、本種は明らかに細長くスマートな葉姿をしています。
葉の上面には毛があり、下面には上面よりも多くの微細な毛が密集しています。
茎は基本的に分岐せず単一でまっすぐ直立しますが、上部でわずかに枝分かれすることもあります。
地下に長く横へ這う匍匐根茎を有し、そこから直立した太い茎を地上へ伸ばします。
最大の特徴は茎全体にあり、褐色の多細胞毛がびっしりと絡み合うように密生しています。
草丈は通常30~100cmほどで、多くは70cm前後に成長します。
栽培上の注意点
自生地が日当たりの良い湿原や原野であるため、年間を通じて日当たりと風通しの良い場所で管理することが基本となります。
土壌は、水はけ(排水性)と保水性の両方を兼ね備えた用土が適しており、赤玉土、鹿沼土、腐葉土を等量混合したものが適しています。
水やりは、湿地性の植物であるため「水切れを絶対に避ける」ことが重要です。庭植えの場合は乾燥しにくい適湿地を選んで植え付け、日照りが続く夏場には朝夕にたっぷりと潅水します。
鉢植えの場合は表土が乾き始める前に鉢底から水が流れ出るまで十分に与えます。
特に気温が上がる春の生育期から夏の開花期にかけては吸水が旺盛になるため、受け皿に数センチほどの水を浅く張って鉢を浸す「腰水(こしみず)栽培」を取り入れると乾燥死を防ぎやすくなります。
ただし、水が腐敗して根腐れを起こさないよう、夏場はこまめに受け皿の水を入れ替えて新鮮な状態を保ちます。
肥料は、もともと野草であるため多肥にする必要はありません。
冬の対応として、ノジトラノオは秋の深まりとともに地上部が完全に枯死し、地下の根茎の状態で冬を越す宿根草ですので、地上部が枯れたら地際から茎を刈り取って整理します。
寒さには強く、戸外でそのまま越冬させることが可能です。
ただし、休眠中であっても地下の根茎が完全に乾燥すると枯死するため、鉢植えの場合は冬場も土の表面が白く乾いたら、晴れた日の暖かい午前中に水やりを行って適度な湿度を保ちます。
寒冷地で土壌が深く凍結する恐れがある場合は、腐葉土や敷き藁でマルチングするなどを行います。
花言葉
花言葉は、朱に交われば赤くなる
この花言葉は、ノジトラノオは、近縁種であるオカトラノオやヌマトラノオなどと自然交雑しやすいことに由来するようです。
参照サイト
Wikipedia ノジトラノオ
三河の植物観察 ノジトラノオ
渡良瀬遊水地 植物の会 ノジトラノオ
GKZ植物事典 ノジトラノオ
四季折々の花(in泉の森) ノではじまる名前の花












