ナラ(楢)枯れは2002年ごろから顕著になり、日本の森林全体に広がっているといわれます。ナラの樹は毎年ドングリをつけ、山に住むシカやクマの食料になっており、その影響が心配されます。ここでは、ナラ枯れの発生の過程と、その影響や原因について調べてみました。
ナラ枯れ、クマやシカの食料への影響は?
近くで起こった楢枯れ
写真は、8月に国道沿いに見かけたナラ枯れで枯れた樹です。
冬でもないのに葉は茶色くなって枯れたように見えます。
7月初め、近くの広場でラジオ体操が行われて参加したときに、
山のあちこちの樹が、茶色くなっていることに気づきました。
いままで見たことがないことなので、何が原因かしらべたところ、
カシノナガキクイムシ(樫の長木くい虫、以後カシナガと呼びます)と呼ばれる昆虫が媒介して増える「ナラ枯れ」のようです。
2002年ごろから新潟などで被害がみられるようになり、
ここ紀伊半島でも発生しているということのようです。
人工林が多いこの地方ですが、近隣の村でも発生しているとのことです。
山のあちこちで多くの樹が枯れているので、爆発的に発生しているように思えます。
後で思ったとですが、ナラの樹はドングリをつけ、クマや鹿などの動物の食料になっているので、
エサ不足になりはしないかということです。
エサ不足になると、益々民家近くへの出没も心配されます。
カシノナガキクイムシは日本の在来種なので、昔から起こっていたことなのかもしれませんが、
このように、一度にたくさんの樹が枯れるのは、いままでみたことはありませんでした。
松枯れや杉の樹が枯れている(クマによる皮剥ぎ)ことはありますが、
このようにまとまって起こることは、ありません。
カシナガは、主に、ミズナラやコナラなどの40~50年の樹齢が古い樹に穴をあけて住み着いて繁殖し、
メスが運ぶ「ナラ菌」が樹のなかで増殖するために、根で吸収した水を葉に送ることができなくなり、
樹が枯れてしまうことになります。
人が炭や薪に利用していたころは、樹齢がより若い時期に伐採していたため、
「ナラ枯れ」は少なかったといわれます。
枯れた樹には、1000匹ほどのカシナガシが生息し、
翌年には数十倍になって飛び立ち、他の樹に住み着くということなので、
今回のように、爆発的にナラ枯れが発生するとのことです。
せん孔をうけたの樹の枯死率は、ミズナラで67%、コナラで22%とのことなので、
全てが枯れるということはありません。
ただ、ナラの樹は発芽して、ドングリの実をつけるまで20~30年ほどかかり、
また当地のようにシカが増えた土地では発芽しても大きく育つことは難しいので、
自然環境への影響は大きいと考えられます。
カシノナガキクイムシの生態
こちらは、イラストサイトから借用したカシナガの成虫です。
体長さ5mmほどで、雄雌同じようにみえますが、
オスには尻尾の部分に小さな突起が2個あります。
この絵からはよくわからず恐縮ですが、
メスの前胸にはマイカンギアと呼ばれる器官があって、
ナラ菌(ラファエレア菌)やカシナガの食料になる酵母類を保持しており、
これが孔をあけたナラの中に植え付けられ繁殖します。
カシノナガキクイムシは、ナラの樹に穴をあけますが、
木くずを食べることはなく、写真のように穴のそとに排出します。
これはフラスと呼ばれるもので、ナラ枯れになった樹に見られる特徴です。
ナラ枯れによるドングリの減少と山の動物への影響
「ナラ枯れ」は、2000年の始めごろから注目されるようになり、
全国的に広がっているとされます。
そして、近年ニュースでよく報道される市街地へのクマの出没と関係があるのではないか
と考える方もおられるようです。
クマがどの程度ナラの樹のドングリを食べているのか不明なので、影響の程度はよくわかりませんが、
山の食料が不足し、餌を求めて市街地に出てくる原因となる可能性は考えられます。
このような状態が一過性のものであれば、クマの出没は長く続かないと思われますが、
残念ながら、そう楽観的にはなれないのではないかと懸念してい思ます。
いままで元気でドングリを落していた大きな樹が枯れてしまい、
新しく発芽したナラの樹が順調に育って実をつけるまで30年程度かかることを考えると、
ナラ枯れが発生する前と同等の状態になるまでは、うまくいっても長い期間を要すると思われます。
当地では今でも、鹿の被害や熊の出没があり、さらなる増加が心配されます。
そして、カシナガの発生の原因のひとつは、人の自然へのかかわり方が変わったことが考えられます。
カシナガの発生は、老齢化した太い樹に多く見られますが、
昔、薪炭や薪などに利用されていた時代には、
若い時期に更新され、太くなる前に利用されていました。
ところが、いまは利用されなくなり、そのまま放置されており、
カシナガの餌食になってしまったといえるかもしれません。
もともと、山の動物の食料の減少は、昭和20年代から30年代ごろに政府による拡大造林政策がすすめられ、
雑木林が人工林に植え替えられた時期にも起こったと想像されます。
人間がかかわっている山の環境変化はシカやクマにとって、迷惑なことだろうと思います。
彼らが市街地に出没するのも、食料を求めて、やむなくのことなのかもしれません。
身近に起こった「ナラ枯れ」から、その原因や影響について考えてみましたが、
大袈裟なことを言えば、日本の66%の森林をどのように活用すればいいのかという課題にも通じているように思えます。
「ナラ枯れ」の基本情報
「ナラ枯れ」は、「ブ ナ科樹木萎 凋 病(イチョウビョウ)」と呼ばれる樹木の伝染病であり、
カシノナガキクイムシ(樫の長木くい虫)によって媒介され、広がります。
名前は、樫の木につく体が細長い木を食べる虫とされたことに由来します。
学名は、Platypus quercivorus
カシノナガキクイムシは、コウチュウ目・ナガキクイムシ科の日本在来の昆虫で、
ミズナラ、カシ、シイなどの落葉樹や、
スダジイ、マテバシイ、ウベメガシなどの常緑樹など、
ドングリをつけるブナ科の樹が被害を受けますが、
特にミズナラやコナラの老齢の大径木に多く発生します。
成虫の体長は5mmほどの円筒状で、大径木の内部に穴をあけて棲息し、
「ナラ菌」と呼ばれるカビの仲間の病原菌を伝染させ、
穿孔された樹木は根からの水分の吸い上げが出来なくなり、
夏場に葉が真っ赤になり枯れます。
以下、ナラ枯れ被害の基礎知識(新潟県のホームページ)から、
<ナラ枯れの発生のしくみ>を引用させていただきます。
① 初夏に、ナラ菌を保持した被害木からカシノナガキクイムシが飛び立つ
② オスが健全なナラの木にせん孔した後、集合フェロモンを出して仲間をよび寄せる
③ オス・メス問わず集まり、ナラに大量せん孔する
④ メスは、オスがせん孔したトンネルを掘り進み、交尾・産卵して幼虫を育てる
⑤ メスのマイカンギア( ナラ菌なの菌類を貯蔵する器官)に保持されたナラ菌などが樹木内で繁殖し、
ナラは通水障害を起こして枯れる。
以上が、ナラ枯れの発生の概要です。
また、枯死したナラの樹には1000匹程度のカシノナガキクイムシが生息しますが、
翌年には数十倍に増えて飛び立ち、近隣の樹を枯らすと言われます。
カシノナガキクイムシは、古くから日本に生息したと考えられますが、
薪や炭などに活用されなくなったことから、
樹齢40~50年以上の樹齢の高い樹が増えたことが、被害が増加している原因といわれます。
2002年以降から日本海側の新潟県辺りから被害が急激に拡大し、
2011年には30都府県で発生し、現在も続いています。
なお、せん孔を受けたナラの枯死率は、ミズナラで67%、コナラで22%といわれます。
せん孔されたすべての樹が枯死するわけではありませんが、
自然界では少なからず影響があるだろうと思われます。
参照サイト
Wikipedia オーク カシノナガキクイムシ マツ材線虫病
新潟県ホームページ ナラ枯れ被害の基礎知識
森林総合研究所 自然探訪2015年7月 カシノナガキクイムシってどんな虫?
日本森林技術協会 ナラ枯れ被害対策マニュアル
あきる野市 森林レンジャーが行く「ツキノワグマとナラ枯れ」
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