イワヒメワラビ(岩姫蕨)は、東南アジアや、日本の本州以南に分布するシダ植物です。暖地では常緑、寒地では夏緑性を示し、白毛のある複葉が特徴で、伐採地などに先駆的に表れるパイオニア植物です。、シカの食害に強く、日当たりのいい山地などでよく見られます。
鹿も食べないイワヒメワラビ(岩姫蕨)
発芽時のイワヒメワラビ
発芽時のイワヒメワラビ(4月19日)
イワヒメワラビ(岩姫蕨)は、ワラビと名づけられていますが、
人が山菜として利用することもなく、
食欲旺盛な鹿にも食べられません。
よくにたシダ植物のヒメワラビに似ていて、
岩場のようなところで生えるとして名づけられたといわれますが、
日当りのいい山地でよく見られ、繁殖力が旺盛で一面に生えているのを見かけます。
ただ、日陰には弱いため、スギ林の下などでは見られません。
また、暖かい地域では常緑性ですが、
寒冷地では夏緑性の多年性シダ植物で、
冬は地上部は枯れますが、春になるとこのように芽を出し、
草丈が50~100cmほどと、大きく育ちます。
海外では、東南アジア、中国、スマトラなどに分布し、
日本では北海道や小笠原諸島以外の日本全土に自生しています。
ワラビのように山菜として利用できればうれしいのですが、
残念ながら、動物も食べることがなく、地下茎を伸ばしてどんどん広がるので、
人にとっては(動物もか?)、やっかいものです。
ワラビの新芽
こちらは、山菜のワラビです。
ワラビもシダ植物で、鹿に食べられないのですが、
アク抜きをすることによって、人は食べることができます。
ただ、こちらは地下茎をイノシイが食べるといわれるので、
イノシシが多い地方では繁殖しにくいかもしれません。
イワヒメワラビとワラビの新芽、何となくにていて、
どちらも柔らかそうですが、
食べることができたり、食べられなかったりと見るのは、
人が自分に都合よく評価しているだけのようにも思います。
葉が伸びてきたイワヒメワラビ(4月16日)
発芽して少したつと、写真のように、葉を広げてきます。
4月にはこのように小さなものですが、
育つと、葉柄の長さが35~50cm、葉は長さ40~70cm 幅40cmほどと、大きくになります
成長したイワヒメワラビ
成長したイワヒメワラビ(6月4日)
6月にもなると、このように一面に葉が広がり、
地面を覆ってしまいます。
草丈は50~100cmほどと比較的大きくなるので、
小さな草花などは覆われてしまいます。
表(8月) | 裏(8月) | |
イワヒメワラビの葉 |
イワヒメワラビの葉は3-4回羽状複葉で、
根元近くの小葉は長く、先端になるほど短くなった三角状で、
表裏には白い柔毛が見られます。
イワヒメワラビの胞子嚢
そして、裏面にはこのように、たくさんの胞子嚢が見られます。
人にとっては厄介者のイワヒメワラビ、鹿も躊躇して食べないために、日当たりで思いのままに茂っています。
イワヒメワラビの基本情報
イワヒメワラビ(岩姫蕨)は、コバノイシカグマ科イワヒメワラビ属の夏緑性(暖かい地域では常緑性)の多年性シダ植物で、
日本を含むアジアの温暖地域に分布しています。
中国南部、台湾、東南アジア、スマトラ島や、日本では北海道と小笠原諸島を除く広い範囲で、
とくに関東以西の低山地や林縁、伐採地などのやや明るい場所に多く生育します。
名前は、岩場に生えるヒメワラビににた植物としてで命名されましたが、
岩の上に生えることはなく、草地や林縁などの明るい場所で見られます。
学名は、Hypolepis punctata
Hypolepisは、ギリシャ語のhypo-「下に」、lepis「鱗、うろこ」を意味し、
根茎や葉柄の基部に鱗片(鱗状の毛や構造)が見られることに由来します。
punctataは、ラテン語のpunctatus「点状の、斑点のある」に起因し、
葉や胞子嚢群の分布、または葉面の毛の配置が点状に見えることに由来します。
葉は3〜4回羽状複葉で、葉身は長楕円形〜三角状楕円形、
葉柄の長さは35~50cm、葉身は長さ40~70cm 幅40cmほどになります。
全体に白い軟毛があり、触れるとざらついた質感があります。
葉柄は長く、赤紫色を帯びることがあり、胞子嚢群は裂片の縁付近に生じ、包膜はありません。
根茎は長く匍匐し、黒褐色で毛が密生します。
生態的には草地や伐採地などの先駆植物(パイオニア種)として繁茂し、樹木が育ち、日陰ができると消える傾向があります。
寒地では夏緑性、暖地では常緑性を示し、環境に応じて柔軟に適応します。
また、シカの食害に強く、忌避植物としても知られ、食害地では優占することがあります。
類似種のヒメワラビとは葉の毛の量や根茎の形状などが異なります。
参照サイト・書籍
松江の花図鑑 イワヒメワラビ
桶川修 文 山と渓谷社 「くらべてわかる シダ」